初孫 蔵見学

初孫の敷地に入ると右手に蔵探訪館、左手に社屋、そして一番奥に 醸造棟が建っています。初孫の醸造棟は長さが約100mほどもある 多きなものです。

お酒に醸すときに一番最初の工程を行うのが原料仕込室です。 600kg(約10俵分)の米を袋状のものに入れ、クレーンでつり上げて 精米済みの原料米を洗米機に入れます。 右の画像が初孫自慢の精米機の画像です。最新式の精米機で 正確に精米することができます。


洗米された米は浸漬といって水に浸すわけですが、 初孫では大きめの浸漬タンクは10個ほど使用しています。 精米歩合が低い米は約13分30秒浸漬し秒単位での浸漬の管理を行っています。


3,4割以上磨いた米の場合は特に浸漬には気を使います。 浸漬用のタンクは中が中空になっていて、 時間がきたら一気に放水できる仕組みのタンクを使用しています。


浸漬が済んだ原料米の蒸しは通常100℃の蒸気で行いますが、 初孫の場合は約120℃の加熱蒸気(スーパーヒーター)を使います。 更け上がりまでは一時間ほどです。仕込みは室温が7℃~13℃の低い環境で行うので、 蒸し上がった米を冷却(放冷)する必要があります。


この時期は冷えた外気を用いて冷却するそうです。
一年に一度寒い時期にしか造りを行わない寒造りの利点の一つに この放冷に外気が利用できるということが挙げられるでしょう。 初孫では夏を除く1年の3/4が醸造期間です。
そのため、冬を除く残りの2期は空調設備を稼働させて行っています。 冷却(放冷)が済んだ米はエアーシューターを用いて 次の工程が行われる部屋にうつります。お酒の母、お酒のもとになる酒母(しゅぼ)を造る酒母室に原料米が 送られてきます。


1000lタンク(通称6石タンク)は一升瓶で約600本くらいの容量が
あるわけですが、これを使って酒母を造ります。全国酒蔵は多数ありますがほとんどの蔵が酒母は速醸もとで造っています。 他の酒母の造り方と比較すると、 どちらかというと簡単に安全にそして短い時間でお酒を醸すことが可能です。


昔の酒蔵では、腐造(お酒の造りに失敗すること)を2年続けると 蔵はつぶれたそうです。 腐造は出したくない、安定した造りをやりたいということで
現在では速醸もとを使用する蔵がほとんどになっています。



山形県内で生産量が最も多い蔵がこの初孫なのですが、 一番の特徴に全量を生もと造りで行っている点があります。生もと造りは乳酸菌を用いて酸を増やします。 できたての酒母は最初は甘酸っぱいです。 酸っぱいのは酸で他の雑菌を殺すためでもあります。 お酒の酵母は酸に強いので死んでしまうことはないそうです。


なぜ、初孫が生もと造りにこだわるのでしょう?初孫があった本町船場町は水や空気、気候が生もと造りに適していたようです。 この十里塚の新工場を建てるときに速醸か生もとか迷ったそうですが
初孫は地方の蔵、時もとに密着した意味での地酒を造りたいとの 願いから在来の生もと造りを選択しました。


生もと造りは手間暇がかかりますが、初孫は普通酒も生もと造りなのです。 すべて生もとを使っているのは全国でも数えるほどしか残っていません。酒母室は3つにわかれているのですが、前半の2週間置く部屋と 後半の2週間におくへやと温度をわけています。 部屋へ酒母を移すときはタンクごと移す方法を用いています。


生もと造りの場合、酒母は速醸にくらべて厳しい環境で育ちます。 醪になったときに非常に醗酵力がおおせいなのが特徴です。 生もとの場合は醗酵力が強く、醪の食い切りが良いので
お酒の後味がすっきりしていて深みが出ます。 6カ月~1年ほど寝かすと味がまろやかになり、秋上がり(ひやおろし ともいいます)しやすいお酒です。
この酒母の生成には24日から1カ月ほど要します。


仕込みは3段仕込みを用いています。 タンクは一升ビンで約12,000~13,000本分あり、一仕込みが 白米で約6トンです。



初孫では年間の稼働日数が約250日で10月から翌年の6月くらいまで 醸造を行っております。 三期醸造を行っているのは全国的にみて杜氏や蔵人の平均年齢が
60歳近いのを考慮してのことです。 10年もたつとあちこちの蔵で醸造が行えなくなる可能性が強いのが 酒造業界の深刻な実情です。


また蔵人も専業農家が多いのです。冬の農作が行えない期間を 酒蔵で働くわけです。いわば季節労働者なわけです。 ところが今は専業農家の数自体が少なくなっているのが現状です。
そこで、三期醸造を行い年間雇用を行う方針をとっております。


冬期以外の春、秋は二重構造のタンクを用いて中を冷たい水が 循環できる仕組みをとっています。 年間雇用を行うことで、酒造りの基礎、昔ながらの在来法の造りを若い造り手に
伝えることも可能になりました。



案内して下さった営業部長の後藤さんの言葉です。「お酒は人間が造るわけではありません。 微生物がものを食べてアルコールを作り出します。 その恩恵を人間が授かっているわけです。」


「生き物を大事に育ててその生き物からお酒を造ってもらうということを 意識することが酒造りには重要です。」

栄光冨士 蔵見学

栄光冨士の最大の特徴はレギュラーから 高級酒まで全部東北生まれの10号酵母で醸しています。 酒母は全品高温糖化です。 杜氏さんは、南部杜氏の熊谷氏が季節になると岩手からやってきます。

蔵の歴史は非常に古く、創業300年を数えるそうです。 言い伝えによりますと加藤清正に由来しているそうです。 いかにも歴史を感じさせられる古めかしい佇まい、 母屋の玄関を入りますと、当時使ったと思われる やりが飾られております。

仕込水は、赤川水系の水道水を使っております。 水道水と言っても、上流に町が無く日本一綺麗な水道の 水と言われているようです。 しかし、今月山で月山ダムが工事中ですのでその後また 昔の井戸水に変えるかもしれないとのことです。

去年、吟醸酒専用のしぼり機械を数千万円で導入しました。 ですから、他の酒の香りなどが混ざることなく 高品質の吟醸酒が生産されると思います。

栄光冨士の立地する大山町は昔、灘、伏見と並ぶ日本3大酒の産地でした。 人口2万の町に50数件の蔵元が軒を連ね、おおいに賑わったそうです。 当時は新潟の業者も列をなして仕入れにきたそうです。 明治の大火でほとんどの蔵が焼失し、第2次大戦で整理統合され 今では、4件の造り酒屋を残すのみとなりました。

全般的に香りが控え目で水のごとく呑める酒を目指しているようです。

上喜元 蔵見学

上喜元は酒田の昔ながらの商店街の中町(なかまち)の近くにあります。 すぐ近くには酒田の港が見渡せる日和山があります。 昔ながらの老舗がならぶ街並みです。

酒田酒造は御蔵と母屋が隣接しています。
母屋は檜造りの素晴らしいものです。


玄関に入ると幅180cmほどある扉があります。とても重い扉で普段は開けっ放しにしているようですが あんなに大きくて立派な一枚板の扉は見たことがありません。


土間に沿うように梁がはってあるのですが長さは20mもあるでしょうか。太さは40cm近くもあり、家屋に使用している木材であのようなものは
5、6軒しか現存していないそうです。


それだけでも驚いてしまいましたが、土間沿いの廊下の板が 60cm幅で25mほども続いています。


それほどの木材をみつけてくるのもたいへんだと思いますが
加工して建築物に使用しているのは当時の大地主だからこそ なのかもしれません。


母屋の奥には土蔵があり、家宝が眠っているとのことです。とは言っても実際に私を案内して下さった高橋さんも見たことはないそうですが。でも廊下に置いてあった木箱には「兜」と書いてあったので
土蔵の中はきっとさぞかし立派なものが入っていることでしょう。



御蔵の造りも古いです。 昔ながらの手造りが生きている蔵です。 杜氏の佐藤正一さん(左の写真の方です)は酒田市の隣の平田町の方で、 造りのときにならないと御蔵にはいらっしゃいません。 佐藤さんは庄内でも指折りの名杜氏です。 10月中旬の時点ではまだ造りは始まっていませんでした。 まず蒸米をするときの和釜を見せて頂きました。 この和釜は普通酒の火入れを行うときも使用するそうです。 和釜の隣にはセイロが置いてありました。


材質を聞いてみたところアルミ製とのことでした。 アルミは溶接などの加工が面倒なので、造るのには手間がかかったことと思います。




この近辺は、初孫を除くほとんどの御蔵は精米は協同精米です。 蔵が集まって協同で精米しています。
初孫は精米機を持っているんですね。となりには洗米機がありました。 随分古い洗米機で、10年20年ではきかないでしょう。





タンク室は2階建てになっていて、幅の広い階段があります。 2階に上がるとタンクの口の部分が見えます。階段の段の角がずいぶん削れています。
これは今のような設備がない昔、仕込んだ醪を桶にいれて 階段を引きずり上げた痕だそうです。


麹室(こうじむろ)も土蔵造りで壁の間には保温のための藁が入っているそうです。 中は殺菌灯で薄暗かったのですが、麹を置く棚も工夫がしてあって
大吟醸などのように麹を重ねて置かないもののために 棚が簡単に取り外しできるように造ってあります。


今は造りをやっていないので麹室の中まで入ることができました。麹室に行く途中ではおばさん達が吟醸粕を袋詰めしていました。
「食べでみれ」(庄内弁です)と言ってくれたので お言葉に甘えてちょっと指につけて食べてみました。普通の粕によりも甘かったです。


粕の中にこりこりしたちょっと固めの
ものが残っていました。これは麹です。 吟醸粕というだけあってとても香りは綺麗です。 帰りがけに二袋ほどわけて頂きました。


酒田酒造の搾りの機械は2つあります。 空気圧を利用して搾る機械と昔ながらの槽(ふね)です。 吟醸などはこの槽をつかって、丁寧に搾ります。
布袋に醪を入れて搾るわけですが、力加減が難しくあまり強く 搾ってしまうとお酒に袋香がついてしまうそうです。



袋吊りと呼ばれる搾り方もあります。 醪を布袋に入れて上から吊るし、滴り落ちたものを集める方法です。とても贅沢な搾り方で、この方法で造られたお酒は雫酒(しずくざけ)とも
呼ばれます。


搾りが終わったお酒を貯蔵しておく冷蔵室はこの搾りを行う所の 奥にあります。斗瓶や一升瓶、四合瓶などが綺麗にならべてあり、 みなさんのお手元に届けられる日をじっと待ち続けています。

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